FP3級合格のための「医療保険の基礎」をわかりやすく解説

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医療保険は社会保険の一つで病気や怪我、出産、死亡時に保険金が支払われる保険です。

病院に行ったときに治療費の7割を負担してくれるのはこの医療保険のおかげなので、一番身近に感じられる社会保険かもせれませんね。

 

民間の医療保険と区別するために公的医療保険と呼ばれることもあります。

 FP3級試験でも過去問頻出度は高めです。

覚える知識は少ないものの、
年齢や期間など明確に覚えておかなければいけない数字があるので
そのあたりを完璧に頭に入れておかなければいけません。

 

医療保険の種類

公的医療保険の一番の特徴は種類が3つあるということ。

 

公務員や会社勤めの人と自営業の人、75歳以上の人で加入する保険が変わります。

会社勤めの人の保険(被用者保険) 健康保険

自営業の人の保険(地域保険)   国民健康保険

75歳以上の人の保険        後期高齢者医療制度

 

後期高齢者医療制度は区分が少し異なるので、説明は後回しにします。

 

まずは国民健康保険と健康保険の違いから

2つの違いを簡単にまとめると下記の表のようになります。

  健康保険 国民健康保険
運営者 全国健康保険協会
健康保険組合
市町村(都道府県)
健康保険組合
被保険者 会社員 公務員 自営業 無職
保険料の支払い方法 給料天引き 直接支払い
保険料の金額 事業所と折半 全額

保険が2種類もあるせいで覚えることが倍増して紛らわしいですよね?

でも公的医療保険に種類があるのには訳があるんです。

 

なぜ公的医療保険は2種類あるの?

公的医療保険に国民健康保険と健康保険の2種類あるのは
保険制度の成り立ち方が関係してきます。

 

そもそも医療保険は勤めている人用の被用者保険が先に誕生して、
その15年ほどあとに地域保険が生まれました。

 

被用者保険の成り立ち

被用者保険が生まれたのは今から約100年ほど前。

その頃の日本は産業革命真っ只中で、
大きい工場に勤めている人がたくさんいました。

 

労働者が増えると、
「労働環境を改善しろ!」
「労働者の権利を保護しろ!」
などと声を上げる人も増えました。

 

このような労働運動は社会問題に発展し
その対策として政府は

「労働者の労働環境や業務上の疾病や死亡は工場主がなんとかしなさい」

と1916年に工場法を制定。

 

この工場法によって労働者の健康は職場が責任を負うという
現在の被用者保険の流れができたんです。

 

 

でもこの工場法の内容は
労働時間の制限は子供や女性のみに適用されるものであったり、
小さい工場は法律の適用外だったり…
とあまり充実したものではなかったんですね。

 

そのため労働運動はなかなか収まりませんでした。

 

 

そこで1922年に制定されたのが健康保険法です。

この健康保険法は

業務外の疾病も雇用主が補償する
労働者本人とその家族の疾病も補償する

といった労働者にとってものすごく手厚い内容でした。

 

これが現在の被用者保険制度(健康保険)の基礎になっています。

 

 

地域保健の成り立ち

一方、地域保険は被用者ではない農家の人たちのために生まれました。

 

この頃の日本は世界大恐慌のせいで農産物の価格は下落。

農村の栄養・健康状態は悪化し
政府は被用者以外の人の為に保険制度を検討しました。

 

そこで1938年に制定されたのが国民健康保険法。

国民健康保険法で

被用者以外のものを対象
市町村単位での保険

といった現在の地域保険(国民健康保険)の基礎ができたんです。

 

 

 

保険の成り立ちに関してはFP3級試験には出題されません。

知っておくと被用者保険と地域保健の違いが覚えやすいので参考までにしてください。

 

 

健康保険について

健康保険は会社員や公務員、またその家族(扶養者)が加入する被用者保険です。

 

保険者(運営者)

保険を運営しているのは全国健康保険協会(協会けんぽ)か健康保険組合になります。

 

健康保険組合

健康保険組合は企業が設立した団体で、ある程度規模の大きな会社に務めている人はこちらに加入していることが多いです。

 

ソニーでは下記のような健康保険組合を運営して関連会社の社員やその家族が加入することができます。

ソニー健康保険組合

 

健康保険組合の特徴は
組合ごとに法律の範囲内で保証内容が違うところ。

各組合がその業界に特化した制度を作ったり、財政状態によって保険料を安くしたりとメリットがあるのが特徴です。

 

逆に保険料が高かったり、赤字運営している組合もあります。

 

共済組合

健康保険組合の中でも公務員が加入するのが共済組合。

国家公務員共済組合や地方公務員共済組合など
特定の職業の人たちが集まって組織された組合が全国に80ほど存在しています。

 

通常組合の保険は被保険者が少ないほど保険料が集まらないので財政的に安定しにくいのです。

しかし共済組合の場合は調整交付金などの措置が取られることもあり、運営が危うくなるほど財政が傾くことは少ないといえます。

 

 

また、共済組合は健康保険だけでなく年金など他の制度も運営しています。

 

全国健康保険協会

健康保険組合に加入していない場合は全国健康保険協会の方に加入します。

会社員や公務員ではない日雇いの労働者が加入できる
日雇健康保険という制度も全国健康保険協会が運営しています。

協会けんぽHP

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat710/sb7030/1787-1484

 

 

健康保険の保険料

健康保険の保険料は各事業所との折半で払うので、実際に被保険者が払う金額は半額ですみます。

 

保険料は全国健康保険協会の場合は都道府県ごと収入によって決まっています

保険料額はこちらで確認できます。

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat330/sb3150/h31/h31ryougakuhyou3gatukara

健康保険組合の保険料は各組合ごとに定められています。

 

 

また、健康保険の場合は被保険者の扶養に入っている場合は扶養者の保険料は無料にです。

例えば健康保険に入っている夫の専業主婦をしている妻は保険料を払わなくても病院代は3割負担で済みます。

 

任意継続被保険者制度     

健康保険は被用者保険なので、
通常退職をすると国民健康保険に切り替えなければいけません。

しかし退職をしたあとも引き続き健康保険を継続できる制度があるんです。

 

継続できる期間は2

この制度を利用できるのは2ヶ月以上勤務した人になり、退職後20日以内に手続きをする必要があります。

 

 

なぜこんな制度あるのかとうと
退職して次の健康保険組合に入るまでのつなぎのためです。

 

例えば転職する場合、
退職した次の日に新しい職場で働くことは難しいですよね?

退職してから新たに就職するまでの間は国民健康保険に加入しなければいけませんが、
無職期間が短い場合、
国民健康保険の加入手続きをするのは面倒です。

でも無職中に病気になったときのために保険には入らなければいけません。

 

一時的な国民健康保険のためにわざわざ加入と脱退の手続きをしなくて済むように任意継続という制度ができたんですね。

 

 

任意継続の保険料は全額自己負担になるので
会社勤めをしていたとの折半がなくなり
2倍の金額になってしまいます。

 

 

国民健康保険について

国民健康保険は自営業の人や職についていない学生などが加入している地域保険です。

 

保険者(運営者)

運営している団体は市町村(都道府県)か同業の人たちで成り立っている国民健康保険組合です。

 

今ままで市町村が主に国民健康保険の財政を担当してきましたが、
2018年4月から都道府県の財源で運営するように変わりました。

 

その理由は近年、国民健康保険の加入者は被用者でない高齢者が増えてきました。

つまり収入が低く(保険料が安く)、医療費が高い人が増えたので運営する市町村の財政では苦しくなってきたからなんです。

 

財源は都道府県になったものの、
窓口や事務は今までと変わらず市町村で行っていますので
あまり切り替わった実感はないかと思います。

 

国民健康保険の保険料

保険料は市町村ごと(国民健康保険組合の場合は組合ごと)に収入に応じて金額が変わります。

 

健康保険と大きく違うところは
扶養に入っているかどうかは関係なく、
一人ひとりに保険料が課されるところです。

 

 

 

後期高齢者医療制度

75歳以上の後期高齢者が加入するのが後期高齢者医療制度。

国民健康保険や健康保険組合を脱退し、すべての後期高齢者が加入します。

 

65歳~74歳でも一定の障害の状態にある場合は加入することができます。

 

この国民健康保険の高齢者が増え続けて、財源不足対策のために発足した制度です。

 

 

療養費の自己負担額は1割(現役並みの収入がある場合は3割)です。

 

保険者(運営者)

後期高齢者医療制度は後期高齢者医療広域連合が運営しています。

各都道府県ごとに1団体づつ設置されてる地方公共団体です。

 

平成20年に制度が新設されたときに発足した団体ですが、
ほとんどの窓口業務は以前通り市町村でできます。

 

保険料

 

保険料は各広域連合によって定められていて、
基本的には年金から天引きされて徴収されます。

年金額が18万円以下の場合は別の徴収方法が取られます。

 

しかし後期高齢者(75歳以上の人)が支払っている保険料は
運営資金の10%程度しかまかなえないため、
国や県、市町村の公費と他の医療保険からの支援金が充てられているのが現実です。

 

 

保険金の種類

ここでは公的医療保険でもらえる保険金をご紹介します。

 

療養費

療養費は治療にかかった費用の7を負担してくれる給付金で
加入している公的医療保険に関わらず、自己負担額の割合は一緒です。

未就学児や70〜74歳の人は8割を負担してもらえます。

 

療養費は医療機関で保険証を提示すると自動的に3割だけの請求になりますが、
もし保険証を提示できなかった場合にはその場で医療費の全額を支払い、
後で療養費の7割が払い戻されます。

 

払い戻しは加入している団体に自己申告しなければいけません。

 

 

療養費の自己負担は3割が原則ですが、
例外で市町村によっては子供の医療費を負担してくれるところもあり、
負担してくれる割合が全額だったり、
対象年齢が18歳までだったり、
保証の手厚さは各市町村で違いがあります。

 

この制度は各自治体が独自に行なっているものなので、
加入している医療保険によって差が出ることはありません。

 

高額療養費

療養費の3割の自己負担金に月ごとに上限が設けられ、
それを超える金額分に高額療養費が給付されます。

 

高額療養費の上限金額は年収や年齢によって定められ、
基本的に収入が多い人の上限は高くなります。

 

また、健康保険に加入している場合、
高額医療費は扶養者との合算が可能です。

同じ月内なら別々の診療所で受診したとしても、
医療費の合計の上限額を超えたぶんが給付されます。

 

つまり配偶者と子供が同じ月に別々の病院で治療を受けて、
治療費の合計が上限を超えたら
高額医療費がもらえます。

 

 

さらに高額療養費を直近12ヶ月で3回支給された場合、
4回目から上限金額が下がる制度があります。

毎月高額な医療費を支払っている家庭への救済措置です。

 

 

傷病手当金

傷病手当金は健康保険加入者のみがもらえます。

国民健康保険の人は給付されません。

 

これは病気や怪我のため仕事ができず給料がもらえないときのための給付です。

最長で16ヶ月間支給されます。

 

給付される金額は日給の3分の2(支払日以前の連続した12ヶ月間の標準月額報酬を平均した額÷30×2/3

 

傷病手当金の給付の条件

傷病手当金をもらうためには下記の条件全てに当てはまらなければいけません。

1,働くことが不可能

2,4日以上休んでいる

3,給料の支払いがない、または傷病手当金より給料が少ない。

 

傷病手当金は年金保険の障害給付や労災の休業補償給付を受けている場合、重複して給付することはできません。

 

 

出産育児一時金

出産をすると赤ちゃん一人に付き42万円を給付されます。

出産自体は療養費の対象外になりますので、
実質この42万円で出産時の病院代を支払います。

 

出産時の支払いは高額になるため出産育児一時金は直接支払制度とうものが使えます。

直接支払制度は直接医療機関が保険者に保険金の請求をしてくれる制度で、
実際に出産した時に窓口で現金を支払わなくても良い制度です。

 

直接支払制度を使って、
もし出産費用が42万円未満だった場合は、
申請をして差額分を支払ってもらいます。

 

出産育児一時金は健康保険でも国民健康保険でも給付を受けられます。

 

出産手当金

出産手当金は出産のために仕事ができず、
給料の支払いが無かった場合に給付されるものです。

 

給付される金額は日給の3分の2(支払日以前の連続した12ヶ月間の標準月額報酬を平均した額÷30×2/3

出産する42日前から産後56日後までに休んだ期間が対象になります。

 

国民健康保険や健康保険に加入している人の配偶者(被扶養者)には支払われません。

 

FP3級合格のための医療保険のまとめ

日本の公的医療保険は

国民健康保険

健康保険

後期高齢者医療制度

の3つのシステムで成り立っています。

それぞれの加入条件や保険者の違いについては絶対に押さえておいてください。

 

公的介護保険や公的年金保険、民間の保険を勉強すると
似た名前の給付金やシステムが登場しますが
ごっちゃにならないように注意してください。